寺田拓生税理士事務所

群馬県藤岡市の会計事務所

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業務用の不動産所得の取壊しによる資産損失は損益通算できません。

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先日、受けた研修で、不動産所得の損益通算について、私の知らないことがありましたので、記事にしようと思います。

結論から言うと、不動産所得で業務用の資産の取壊しによる損失は、他の所得との損益通算ができないというものです。

包括的所得概念から見れば、疑問の余地があり損益通算を認めるべきであると考えます。

同様の事案を抱えている方がいらしたら、参考にして下さい。

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設例

給与所得者である居住者Aは平成27年に自己の所有する賃貸用アパートを取り壊し、その跡地にマンションを新築して同年中に賃貸を開始しました。

Aの同年における賃貸料収入と必要経費は次のとおりであり、取壊しによる資産損失によって不動産所得は赤字となりますが、給与所得との損益通算はできますか。

なお、同年中の不動産の貸付規模は業務的規模です。

・旧アパート 賃貸料収入 30万円

必要経費 110万円(内、取壊しによる除却損失90万円)

・新築マンション 賃貸料収入 100万円

必要経費 60万円

回答

不動産所得の金額は、次のとおり0円となるため、給与所得との損益通算は発生しません

1 収入金額

30万円+100万円=130万円

2 資産損失の金額を除いた必要経費

(110万円-90万円)+60万円=80万円

3 資産損失の金額を必要経費に算入する前の不動産所得の金額

130万円(上記1)-80万円(上記2)=50万円

4 資産損失の必要経費算入額

50万円(上記3)<90万円(資産損失の金額)

50万円が資産損失の必要経費算入額となる。

5 不動産所得の金額

50万円(上記3)-50万円(上記4)=0円

解説等

不動産所得の基因となる固定資産の取壊し等により生じた資産損失の金額については、不動産の貸付規模により、必要経費に算入することができる金額が異なります。

貸付規模が事業的規模である場合は、その資産損失の金額を全額を必要経費に算入することができますが、貸付規模が業務的規模である場合には、その年分の不動産所得(その資産損失を控除する前)の金額が必要経費算入の限度額となります。

したがって、90万円の資産損失(除却損失)のうち必要経費に算入される金額は、その資産損失の金額を必要経費に算入する前の不動産所得の金額(本事例では50万円)が限度となり、90万円の資産損失のうち、40万円は必要経費に算入できず、不動産所得の金額は0円となります。

なお、本事例において取壊し費用がある場合、取壊し費用は資産損失の金額に該当しないため、貸付けの規模が業務的規模であっても、その全額を必要経費に算入することができます。

不動産の貸付けが事業的規模である場合

本事例の貸付規模が事業的規模である場合には、資産損失の全額を必要経費に算入することができます。

したがって、次のとおり不動産所得が赤字となるため、給与所得との損益通算が可能です

1 収入金額

30万円+100万円=130万円

2 必要経費

110万円+60万円=170万円

3 不動産所得の金額

130万円-170万円=△40万円

建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われるかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定しますが、次に掲げる事実のいずれかに一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理がない限り、事業として行われているものとします(所基通26-9)

1 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること

2 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること

土地を利用する目的で取得した建物の取壊し費用等

本事例において、Aが旧アパートをその敷地と共に取得した場合で、かつ、当初から旧アパートを取り壊して敷地を利用する目的であった場合には、旧アパートの取得対価及び取壊し費用は、その土地の取得費に算入するものとして取り扱われるため、旧アパートの取壊しに係る資産損失及び取壊し費用は、必要経費に算入されません。

[参考通達]

≪土地等とともに取得した建物等の取壊し費用等≫

38-1 自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合又は建物等の存する土地(借地権を含む。以下この項において同じ。)をその建物等と共に取得した場合において、その取得後おおむね1年いないに当該建物等の取壊しに着手するなど、その取得が当初からその建物等を取壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときあ、当該建物等の取得に要した金額及び取壊しに要した費用の額の合計額(発生資材がある場合には、その発生資材の価額を控除した残額)は、当該土地の取得費に算入する。